ジュール・フェルデナン・メダール 野ばら 油彩画
ジュール・フェルディナン・メダール|Jules Ferdinand Médard(1855–1925)
《森に咲く野薔薇》|Roses sauvages dans le sous-bois
制作年代|19世紀末〜20世紀初頭頃
技法|油彩・キャンバス

深い緑の中にひっそりと咲く淡いピンクの野ばら。
華やかな花束としてではなく木々の間に自生する姿のまま描かれた花々には庭園の薔薇とは異なる素朴な美しさがあります。
画面の大部分を占めるのは幾重にも重ねられた緑と褐色。
そこへ差し込む光を受けるように白から淡いピンクへと移ろう薔薇が浮かび上がります。
特に美しいのはすべての花を同じ鮮明さで描いていないこと。
手前の花には花芯や花弁まで丁寧な描写を施す一方、奥へ行くほど輪郭を緑の中へ同化させています。
そのため視線は自然に画面の奥へと導かれ森の湿度や木陰の空気まで感じられるようです。

そしてこの作品で印象的なのが背景を満たす光です。
深い緑の森に金色を重ねることで絵の奥に柔らかな明るさが生まれています。
特に右上の遠景へ向かっていく光の表現は静かな森に朝の光が差し込み始めた瞬間を思わせます。
華やかさを競うのではなく誰にも見られず咲いている花を見つけたときのような喜び。
そんな静かな美しさを持った作品です。
ジュール・フェルディナン・メダール(1855–1925)はフランス・アンザンに生まれた画家です。
リヨン国立美術学校で花卉画家ジャン=マリー・レニエに学び、とりわけ花や果実を題材とする作品で知られました。
1878年からパリのサロンへの出品を始めたことが確認されています。
メダールの花卉画は精緻な描写と自然観察を重んじたリヨンの花卉画の伝統を受け継ぐものです。1897年のリヨンのサロンに関する同時代評でもその花の描写は「緻密さ」「軽やかさ」「優雅さ」といった点から高く評価されていました。

現在も作品は美術市場で扱われておりChristie’sの記録には《Roses and grapes on a woodland floor》が残されています。
森の地面と薔薇を組み合わせた構成は本作との比較資料としても興味深いものです。
また、《Grand bouquet de pivoines dans un vase en albâtre》はリヨンの花卉画を扱った展覧会「L’Art de la fleur à Lyon」への出品歴が記録されています。

この作品を選んだ理由は薔薇そのものの美しさ以上に「緑の中に花を置く」メダールの感覚にあります。
遠くから見るとまず目に入るのは大きな緑の面。
その中から近づくにつれて一輪、また一輪と薔薇が姿を現します。
華やかさを正面から主張する花の絵ではなく部屋に掛けたときにはむしろ一枚の窓のように静かな緑を空間へ持ち込んでくれる作品です。
そんな楽しみ方のできる一枚として、Galerie HEATHでご紹介いたします。
サイズ|60.2 × 52.4 cm
価格|¥680,000(税込)