マドレーヌ・ルメール 葡萄と栗 水彩画
マドレーヌ・ルメール|Madeleine Lemaire(1845–1928)
秋の実り 葡萄と栗|Fruits d’automne, raisins et châtaignes
制作年代|19世紀末〜20世紀初頭頃
技法|紙に水彩
額装サイズ|W84 × H69.8 cm
価格|HOLD

籠からこぼれ落ちるほど豊かに盛られた赤、白、黒の葡萄。
その傍らには実をのぞかせる栗が置かれています。
花、とりわけ薔薇の画家として名を馳せたマドレーヌ・ルメールですが、本作で目を奪われるのは果実を描く際にも失われることのない彼女の繊細な観察眼です。
薄く絵具を重ねることで表現された葡萄は一粒ごとに光を含み、赤葡萄には瑞々しい透明感を。
黒葡萄には深い紫から青灰色へと移ろう陰影を与えています。
一方栗のイガには細かな筆致を重ね柔らかな果実とは対照的な乾いた質感を表現。
水彩という軽やかな技法の中に色彩だけでなく触れたときの感触まで感じてしまう静物画です。
また、籠や葡萄を画面中央に整然と収めるのではなく蔓や葉を上方へ伸ばし、葡萄の房を手前へこぼれさせる構成も印象的です。
静物でありながら収穫したばかりの果実をそのまま卓上へ置いたような生命感があります。

マドレーヌ・ルメールは1845年生まれのフランスの画家・水彩画家です。
1864年にサロンへ初出品しその後も長くフランス美術界で活動しました。
オルセー美術館のサロン資料を辿ると、花だけではなくFleurs et fruits(花と果実)やPêches et raisins(桃と葡萄)など果実を題材とした作品もたびたび出品していたことが確認できます。つまり本作のような果実の静物はルメールの画業の中でも確かな系譜を持つ主題なのです。
現在、オルセー美術館にはFleurs dans un vase à deux ansesなどのルメール作品が収蔵されています。
またフランス文化省の国立美術館コレクションデータベースJocondeには
水彩とグアッシュで描かれたルメールのNature morte(静物)が登録され
ルイ・サンレック美術館 Musée d’Art et d’Histoire Louis-Senlecqに所蔵されています。

マルセル・プルーストとルメール
ルメールを語るうえで興味深いのが画家としてだけでなく19世紀末パリを代表するサロンニエールでもあったことです。
彼女のアトリエには画家、作家、音楽家、王侯貴族までが集います。
マルセル・プルーストもその一人でした。プルースト自身がルメールのアトリエで開かれた集いについて文章を残しており、そこにはサン=サーンスやマスネら当時を代表する文化人の姿も描かれています。
さらにルメールはプルーストの処女作である楽しみと日々(Les Plaisirs et les Jours)の挿絵も手掛けました。
画家の作品を所有することがベル・エポック期のパリの文学や音楽、社交文化へと繋がっていくところもルメールならではの魅力です。

この作品はルメールという名前以上に水彩画としての豊かさがあります。
葡萄の瑞々しさ、籠の乾いた質感、葉の柔らかな緑、そして栗のイガの鋭さ。異なる質感が一枚の紙の上で見事に描き分けられています。
そして何より惹かれるのがその佇まいです。
100年以上前のフランス絵画でありながら、いわゆる「古典絵画」の重さを感じさせません。
季節の果実を飾るという少し贅沢な愉しみ。
秋が巡るたびに葡萄と栗の色がいつもより美しく見えてくる。
HEATHでは今この時期に暮らしの中で季節を感じさせてくれる絵としてこの作品をご紹介いたします。