ルネ・ラリック ブラックベリー
René Lalique
Mûres| ブラックベリー
制作年代|1930年デザイン
素材・技法|オパルセントガラス,型押し成形によるレリーフ装飾
Size:直径20.6×19cm
Price:¥850,000

絡み合う枝、鋭く伸びる棘、その間にたわわに実るブラックベリー。
ルネ・ラリックが1930年にデザインしたMûres(ミュール)は植物の美しさだけでなくその生命力までをガラスの中に閉じ込めたような花器です。
一見すると柔らかな乳白色の器。
しかし近づいて見ると枝は大胆に器面を横切り、棘は鋭く立ち上がり、ブラックベリーの一粒一粒までが立体的に表されています。
Christie’sに記録される同型作品もオパルセントガラス製で高さ約19cm。

モデル番号は No.1058 とされています。
やはりラリックのオパルセントが最も美しいのは光によって表情が変わるところでしょう。
乳白色に沈んでいたガラスが窓辺では淡い青を帯び、実の粒や枝の輪郭だけが浮かび上がります。
見る角度によって透明、白、青の境界が変わりゆく。その光そのものが装飾になっているところに魅力があります。
そしてMûresがおもしろいのは題材が薔薇や百合のような典型的な美しい花ではないこと。
棘のある野生のブラックベリーを選び、その少し荒々しい枝ぶりまで意匠として取り込んでいます。
整いすぎた美しさではなく野生そのものの自然な美しさを表現しています。

ルネ・ラリック(René Lalique, 1860–1945)はジュエリーからガラスへと表現の領域を広げ、20世紀フランスを代表する装飾芸術家となりました。
植物、昆虫、鳥、女性像など自然界のモチーフを、写実そのものではなく素材の特性を生かした装飾へと変換したことはラリック作品の大きな特徴です。
メトロポリタン美術館にもラリックのガラス作品が複数所蔵されており1920~30年代の花器を含むコレクションを見ることができます。
またコーニング・ガラス美術館もラリック作品を多数収蔵し、過去には約200点による大規模展「René Lalique: Enchanted by Glass」を開催しています。
Mûresそのものについてはフェリックス・マルシラックによるラリックのガラス作品カタログ・レゾネにNo.1058として掲載されていることが確認できます。

ラリックは同時代の香水文化やファッションとも深く結びつき特に香水商フランソワ・コティとの仕事を通してガラスによる香水瓶制作を大きく発展させました。
コーニング・ガラス美術館によれば1909年頃にはコティのための香水瓶を制作しその後ゲラン、ルシアン・ルロン、ウォルトなど数多くの香水メーカーのためにもデザインを手掛けています。
宝飾家として出発した人物がやがてガラスそのものを芸術へと押し上げていった。
その歩みを考えるとMûresの小さな実の一粒にまで神経が行き届いていることにも納得です。

私たちがラリックを扱うのは有名だから。ということだけではありません。
Mûresは少し離れて眺めると静かな乳白色の花器です。
けれど近づけば枝が走り、棘が現れ、その間から小さな実が顔を出す。
本当に自然の中でブラックベリーを発見したときのような風景があります。
花を生けずそのまま置いても十分に美しい。
それでいて朝や夕方、室内の光が変われば昨日とは違う表情を見せる。
暮らしの中で長く付き合うものとしてこういう作品を残していきたいと思います。