ドーム兄弟 プレリアル ベース
ドーム兄弟プレリアル(Prairial)|Daum Frères, Nancy
制作年代|1892年頃
技法|多層ガラス、酸化腐蝕、グリザイユ、エナメル彩、金彩
Size|H 20.5 × W 約5.5 cm
Price|¥3,800,000-
同シリーズ作品:ナンシー美術館所蔵
《Vase Prairial》1892年
Inv. 2004.5.32

フランス、ナンシーのドームが19世紀末に制作したPrairial(プレリアル)。
”Prairial”とはフランス革命暦において春から初夏へと移ろう季節を表す月の名です。
淡い緑の草原には小さな野の花々。
そこから視線を上げると細く伸びる木々と遠景が現れ、さらにその先では緑が霞みながら柔らかな薄紫色の空へと溶けていきます。

この作品は花器の表面に草花を装飾したというより、一本のガラスの中にひとつの風景そのものを作っています。
近くから眺めれば白い花弁や赤い花、細い茎の一本一本まで描き込まれた植物の世界。
少し離れるとそれらは草原となり、木立となり、空へと続いていく。
表面に施された細かな凹凸は光を柔らかく散らし朝靄を通して野原を眺めているようです。
口縁には金彩が残され淡い紫、若草色、白、そして金という色彩の重なりにも、初期ドームらしい繊細さを見ることができます。

底部にはロレーヌ十字を伴う Daum Nancy の金彩銘。
そして、この作品を語るうえで特に重要なのが美術館所蔵例の存在です。
フランスのナンシー美術館(Musée des Beaux-Arts de Nancy)には1892年制作のVase Prairialが所蔵されています。
同館はドームの重要なコレクションを形成しておりその中にPrairialが初期の代表作として収められています。
↓所蔵作品

また市場でPrairialを見かけることは極めて稀でこのシリーズを1892年から1900年に制作されたドームの中でも特に珍重されるシリーズの一つとして紹介しています。
実際本品よりも小ぶりな、高さ15cmの近似する草原風景の作品がナンシーで落札されました。
手数料を含めると約20,000ユーロになります。
それを日本に持ち帰るとなると消費税がかかります。

ドーム兄弟、オーギュストとアントナン・ドームが率いたナンシーの工房はガラスを単なる器から芸術表現へと押し広げ、後にエコール・ド・ナンシーを代表する存在となりました。
なかでも初期の風景表現にはガラス工芸でありながら絵画を見るような魅力があります。


窓から入る自然光のそばに置くと淡い紫の空と草原の緑が静かに浮かび上がります。
庭の緑を眺めるのと少し似ていて毎日見ていても光や時間によって表情が違う。
花を生けずそのまま置いておきたくなる花器です。
130年以上前、ナンシーで誰かが見た春の終わりの野原。
その空気までガラスの中に残そうとしたような作品だと思います。