ピーター・ウォードル 少年の肖像 パステル画
ピーター・ウォードル|Peter Wardle(1929–2016)
少年の肖像|Portrait of a Boy
制作年代|1957年
技法|パステル・紙
サイズ|横41 × 縦52.5 cm
価格|SOLD

深い赤褐色の紙の中に静かに浮かび上がる少年の横顔。
ピーター・ウォードルは人物を必要以上に飾ることなく、その人の内側にある表情を捉えることに長けた英国の肖像画家です。
本作でも背景や衣服の描写は大胆なほど抑えられ、伏せた瞼、頬の丸み、柔らかな髪、わずかに結ばれた唇へと自然に視線が導かれます。
白や淡い桃色のパステルを重ねた肌には光が当たる部分だけがふっと立ち上がるような立体感があります。その一方で髪や首筋の輪郭は赤褐色の地へ溶け込み、描かれた少年が静かな記憶の中から現れたようにも見えます。
そしてこの作品を単なる端正な肖像画で終わらせていないのが首元に走る鮮烈なオレンジです。
限られた色彩の中に置かれた一本の強い色が静止した画面に小さな鼓動を与えています。
まだ幼さを残した頬と、それとは対照的な大人びた表情。
その二つが同居しているところにも、この肖像の不思議な魅力があります。
ピーター・ウォードル(1929–2016)は英国の肖像画家。Leicester School of Artを経て、オックスフォード大学のRuskin School of Artで学び、オックスフォード、トゥールーズ、ロンドンなどを拠点に肖像画家・彫刻家として活動しました。
オックスフォード、ロンドンのみならず、パリ、ストラスブール、リスボンなどでも個展を開催した記録が残っています。
なかでも重要なのがロンドンのNational Portrait Galleryにウォードルの作品が収蔵されていることです。
同館はウォードルを「Portrait painter」として記録しています。
所蔵作品には詩人Edmund Blundenを描いた木炭画、フランス文学研究者Enid Starkieのパステル、哲学者Sir Peter Strawsonの色チョーク、心理学者Hans Jürgen Eysenckの赤チョークと鉛筆、劇作家Athol Fugardのチョークによる肖像などがあります。
さらにオックスフォードのAshmolean Museumをはじめ、Oxford、Cambridgeの複数のカレッジにもウォードルの肖像作品が所蔵されていることが、Magdalene Collegeのアーカイブにも記録されています。

ウォードルの仕事を特徴づけるのは20世紀英国の文化・学術を担った人物を実際に数多く描いていることです。
哲学者Sir Peter Strawson、心理学者Hans Jürgen Eysenck、詩人Edmund Blunden、劇作家Athol Fugardに加え、医学者Patrick Steptoeや哲学者H. L. A. Hartなど、そのモデルは文学、哲学、医学、演劇へと広がっています。
これらの肖像の多くがNational Portrait Galleryのコレクションとなっていることからもウォードルが英国肖像画の領域で残した仕事を具体的に知ることができます。
肖像画はときに知らない誰かの顔。になってしまいます。
けれどこの少年には不思議とそれを感じません。
目を伏せ、何かを考えているような横顔には喜びとも寂しさとも言い切れない静かな感情があります。
名前も物語も知らないからこそ見る人自身の記憶と重なり、いつの間にか身近な存在に思えてくるのかもしれません。
そして私たちが惹かれたのはこの色彩でした。
赤褐色の紙を画面そのものの色として生かし、肌には柔らかな白と桃色、首元には鮮やかなオレンジをひと筋だけ置く。
多くを描かず多くを語らない。
それでも少年の存在がしっかりと残っています。
National Portrait Galleryにも作品を残す肖像画家の確かな観察眼と、個人の空間に飾りたくなる親密さ。
その二つがとても美しく共存した作品としてHEATHでご紹介した一枚です。