ジャン=イヴ・コメール 雪の街 油彩画
ジャン=イヴ・コメール|Jean-Yves Commèr(1920–1986)
雪の街|Ville sous la neige
制作年代|20世紀後半頃
技法|油彩
サイズ|縦54.3 × 横37.4 cm
価格|¥780,000(税込)

白に覆われた画面の奥から街の輪郭がゆっくりと姿を現す。
ジャン=イヴ・コメールの冬の街景を描いた一作です。

一見すると白を基調としたシンプルな画面ですが、近づいてみるとその印象は大きく変わります。
幾層にも塗り重ねられ削られた絵具の上を黒や灰色の鋭い線が走り、建物や塔、樹木、人影らしきものが断片的に浮かび上がります。
画面上部には街の建築が比較的明瞭に描かれる一方、下方へ進むにつれて形態は次第にぼんやりとした白い絵具と線の痕跡へと変わってゆく。
そのため実際の街を描きながらもどこか記憶の中の風景を眺めているような気持ちになります。

とくに美しいのが白の扱いかたです。
雪や空を単純に白く塗るのではなくアイボリー、灰白色、淡いグリーンやベージュを重ねることで冬の光そのものを画面の質感へと置き換えています。そこへわずかに置かれた赤や黄土色が冷たい画面に人の気配を感じさせます。

ジャン=イヴ・コメール(1920–1986)はパリに生まれたフランスの画家、素描家、版画家・挿絵画家です。1936年にアンジェの美術学校に入り1938年にはパリ国立高等美術学校へ進み、彫刻家ジャン・ブーシェのアトリエで学びました。
1951年にパリのGalerie Monique de Grooteで初個展を開催。
翌1952年にはInondations à Denéeでオトン・フリエス賞を受賞し1958年には芸術文化勲章シュヴァリエに叙され同年ヴェネツィア・ビエンナーレにも参加しています。
1979年には芸術文化勲章オフィシエへ昇格しました。
また絵画だけにとどまらず舞台芸術にも活動を広げ、1955年にはパリ・オペラ座でバルトーク作品の舞台幕、装置、衣装を手掛けています。
没後の1987年にはパリのリュクサンブール美術館でコメールへのオマージュ展が開催され、その後ポン=タヴァンおよびパリのサロン・ドートンヌでも回顧的な展示が行われました。
作品はフランス国内ではパリ市立近代美術館、アンジェ美術館、オルレアン美術館などのコレクションに含まれており国外にも所蔵例が伝えられています。
また市場ではトップオークショナーの一つであるChristie’sにも複数の作品が登場しており油彩Les blésや、1970年制作の水彩・墨によるショゼー諸島の海景などが知られています。

コメールにはフランス文化史との面白い接点があります。
1956年アーサー・ミラー原作のLes Sorcières de Salem(るつぼ)に関連してフランスを代表する俳優夫妻イヴ・モンタンとシモーヌ・シニョレの肖像を制作したことが記録されています。
さらに1984年にはアンジェ市からローマ教皇ヨハネ・パウロ2世へ、コメールによるDescente de croix(十字架降下)が贈られたとする記録もあります。

遠くから眺めると静かな具象画。
しかし一歩近づけば厚く重ねられた絵具、引っ掻いたような線、塗り残しや掠れが現れほとんど抽象絵画のような表情へと変わります。
距離によって具象と抽象を行き来する。
そこがこの作品の面白さです。
さらに淡い白とグレーを中心とした現代的な画面に対して重厚な金色の額があえて強いコントラストをつくっています。
古典的なフランス絵画のような佇まいでありながら中に収められている絵は驚くほどモダン。
コメールの確かな経歴を背景に持ちながらそれ以上に今の空間に掛けたときに格好いい。
HEATHではそんな時間を越えて暮らしの中で生き続ける絵としてご紹介いたします。